白いスカーフに秘められたストーリー

ブエノスアイレスの象徴、カサ・ロサダ(大統領府)前に広がる「5月広場」。観光客で賑わうこの場所の地面には、白いスカーフの絵がいくつも描かれています。この白いスカーフは3月24日の祝日「真実と正義の日(Día de la Memoria por la Verdad y la Justicia)」に関係しています。

1976年3月24日ブエノスアイレスで軍部によるクーデターが起き、1983年まで約7年半軍事独裁政権が続きました。この7年半で3万人にのぼる人が、強制的に秘密拘置所に連れていかれ、迫害をうけたといわれています。拘束されずとも、思想や言論の自由を奪われました。

地面に描かれた白いスカーフは、行方不明になった我が子を探し、この広場を行進し続けた母親たちが被っていたものです。彼女たちの行動は国内外に届き、軍事独裁政権の終わりへの一助となりました。クーデターから50年を迎える今年も、広場には世代を超えた行進が行われ、いまなおDNA鑑定による身元確認という終わりのない作業が続けられています。その教訓は、世代を超えて受け継がれています。

軍事政権崩壊後に行われた裁判は、歴史的にも国際法的にも極めて異例であり、世界中で高く評価されています。この時代は通常、大規模な人道犯罪の裁きは、戦勝国が敗戦国を裁く「勝者の正義」に委ねられていました。しかしアルゼンチンは、自国の民主政府の手で、自国の軍事独裁者を、自国の法律によって裁くという、危険を顧みない困難な道を選びました。世界を震わせたのは、彼らが他国の力を借りず、自らの手で過去と決別し、正義を勝ち取ったからです。その実話を描いた映画『アルゼンチン1985 〜歴史を変えた裁判〜』はゴールデングローブ賞など数々の賞を受賞しました。一国の歴史を超えた普遍的な正義の物語として、世界中に感動を与えました。

映画にはワインも頻繁に登場します。抑圧された沈黙の時代を越え、自らの言葉を取り戻した人々にとって、ワインを囲んで語り合うことは、何気ない日常であると同時に、もっとも守りたかった「自由」そのものなのかもしれません。

映画『アルゼンチン1985 ~歴史を変えた裁判~』製作・配給 : Amazonスタジオ

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